在籍型出向とは?必要な手続きと人事担当者が知っておくべき注意点

  • 2022年11月30日
  • 2022年12月14日
  • 人事

出向とは?

「出向」っていうと、よく銀行を舞台にしたテレビドラマなどでよく聞きますよね。関連会社へ出向を命じられた、といった感じでしょうか。こういったドラマの影響もあってか「左遷」と呼ばれたりしてマイナスなイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。

近年では、従業員に経験を積ませたり、他企業の業務を学ばせたりするなどの目的で、出向が行われることも増えてきました。

「出向」については、法律では特段の定めはありません。就業規則には、「配置転換、転勤、出向、転籍」といった規定をしているところも多く、出向は人事異動の一つと考えていいでしょう。

この出向には、「在籍型出向」と「転籍型出向」と2種類あります。

在籍型出向

今いる会社(出向元会社)には籍を置いたまま、出向先会社で一定期間勤務することを言います。

この場合、出向元会社と出向先会社が出向契約を結び、労働者にとっては、出向先、出向元どちらとも雇用関係がある状態です。

ですから、出向期間が満了すると、元の会社に戻るのが前提です。

出典:厚生労働省 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)

この在籍型出向の形態は、労働者供給に該当し、労働者供給を「業として行う」ことは、職業安定法第44条により禁止されています。

しかしながら、以下のいずれかの目的があれば「業として行う」ものではない、と判断されます。

  • 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
  • 経営指導、技術指導の実施する
  • 職業能力開発の一環として行う
  • 企業グループ内の人事交流の一環として行う

在籍型出向を行う際には、いずれかの目的に該当しているかを確認しておきましょう。

転籍型出向

転籍型出向は、現在勤めている企業と結んでいた労働契約を解除し、転籍(出向)先の企業と新たに労働契約を結びます。
転籍先の企業に籍は移る(転籍)ため、従業員は基本的に出向元の企業に戻ることはほとんどありません。実質的に退職扱いとなり、従業員に適用される就業規則などのルールは、全て転籍先のものになります。

コロナ禍によって、事業活動を一時的に縮小せざるをえず、「在籍型出向」によって雇用を維持する会社もありました。そのような企業に対し国は「産業雇用安定助成金」にて、出向元・出向先の双方に対し、助成をしています。

 

今回は、「在籍型出向」に関しての準備や手続きはどんなことが必要か、また注意点を解説します。

在籍型出向に必要な手続き

在籍型出向については、以下のような手続き等が必要になります。

  1. 就業規則等の整備
  2. 出向先との出向契約
  3. 出向労働者の同意と労働条件等の明確化

では、具体的に解説します。

①就業規則等の整備

在籍型出向を命じるには「個別的な同意を得る」か「就業規則等の整備」となっています。ですから、就業規則への規定が必須とはなっていませんが、やはり、トラブルなく出向命令をするには、就業規則を作成し、その中で出向に関する規定を設けたほうがいいでしょう。

基本的には、労働契約を締結した段階で就業規則には同意しているとみなされるので、出向命令権の規定があれば、企業側は出向を命じることができます。ただし、出向によって従業員に不利益が生じたり、社会的に妥当な範囲を越えていたりする場合には、命令が無効になることもありますので注意しましょう。

②出向先との出向契約

出向に関して、出向先企業と以下の内容を記載した契約を結びます。

  1. 出向期間
  2. 職務内容、職位、勤務場所
  3. 終業時間、休憩時間等の労働条件
  4. 出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他の手当の負担
  5. 社会保険、労働保険
  6. 出張旅費
  7. 福利厚生の取扱い
  8. 出向者の勤務状況の報告
  9. 守秘義務
  10. 途中解約
  11. その他必要な事項

出向契約に明確な定めがない場合は、次のように解釈するのが合理的とされています。

出向元企業に残る権利義務 出向先に移る権利義務

労働者の地位にかかわる権利義務

・解雇権(諭旨解雇や懲戒解雇を含む)

・復帰命令権

就労に関わる権利義務

・労務提供請求権

・指揮命令権

引用:厚生労働省 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)

特に、給与については、どちらがどのように負担するかを明確に決めておきます。

給与の支給方法

給与の支給方法は、出向元から支払っても、出向先から支払っても構いません。

出向元企業と出向先企業とで話し合って決めます。在籍型出向の場合は、出向元から支給する場合が多いようです。

給与の負担金

給与の額をどちらがいくら支払うのかも出向元企業と出向先企業との話し合いで決めます。

・出向労働者の給与
・出向元が負担する出向者の企業負担分の社会保険料、雇用保険料

以上を合算した総枠の範囲内であれば、どちらがいくら支払うかは話し合いで決めて構いません。

例として、出向元企業の給与より、出向先の給与が低い場合があります。

・差額の給与分を全額出向元が負担
・差額の給与分を全額出向先が負担
・差額の給与分を出向先と出向先が按分して負担

どのように負担するかを明確に決めておきましょう。

ここで注意が必要です。あくまで総枠の中でどちらがいくら支給するのかであって、例えば、総枠の全額を出向先が支給するような場合、その総枠を超えて支払う(マージンを上乗せするなど)と労働者供給(労働者派遣)とみなされてしまいますので総枠の額を超えてはいけません。くれぐれも総枠の範囲内で取り決めるようにしてください。

※出向労働者の給与の負担額によって、法人税の取り扱いが異なります。所轄の税務署に相談するか、顧問税理士がいる場合は顧問税理士に相談して下さい。

労災保険料について

社会保険や雇用保険は、出向後も出向元企業の資格を継続しますので、出向元企業で保険料も負担します。(ただし、この保険料をどちらが負担するかは双方で話し合って決めます。出向先負担でも構いません)

ですが、労災保険については、実際に仕事をする出向先で加入します。

出向先企業は労働保険概算・確定保険料申告(年度更新)の際に、出向労働者分の賃金を加えて保険料を計算します。このことにより、出向先で労災保険に加入していることになります。

逆に、出向元企業では、労災保険料計算については、出向者の賃金分を控除して計算します。

③出向労働者の同意と労働条件等の明確化

出向は、先述したように就業規則等の規定に基づいて出向命令をすることになります。ただし、出向によって従業員に不利益が生じたり、社会的に妥当な範囲を越えていたりする場合には、出向命令が無効になることもあります。

後々のトラブルを防ぐためにも、出向にあたっては、出向先での労働条件等を明示し、企業側の事情をよく説明して理解してもらったうえで、同意を得て同意書を交わしておくようにしましょう。

労働条件については、以下のような項目について明示し、説明しましょう。

  1. 出向期間
  2. 就業の場所、従事すべき業務
  3. 始業終業の時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇
  4. 給与の額、給与の締め日支払日
  5. 退職に関すること
  6. 社会保険、雇用保険、労災保険の加入に関すること

「出向通知書兼同意書」などを作成して明示し、同意を得るといいでしょう。

まとめ

在籍型出向を行うにあたって、出向先企業と事前にしっかりと取り決めをし、出向期間中においても連携を密にし、労働者が働きやすい環境を作るよう心掛けることは大切です。

在籍型出向に必要な手続きを理解され、有効に活用しましょう。