人材が定着する「指示の出し方」とは?具体性と心理的配慮で職場を変える

今回は「人材が定着する指示の出し方」についてご紹介します。社員が長く働きたいと思う職場とはどのような職場でしょうか?そのヒントは、日々の「指示」に隠されています。

人材が定着しない職場に共通する課題の一つが、「受け手が動きづらい指示」を出していることです。たとえば、曖昧な指示や具体性に欠ける説明では、社員のやる気を削ぎ、最終的には「ここで働き続ける意味」を感じなくなってしまうことがあります。

では、「動きやすい指示」とはどのようなものなのでしょうか?ここでは、以下の3つのポイントを軸に考えていきます。

  • What(何をするべきか)
  • Way(どうやって進めるか)
  • Reason(なぜそれをやるのか)

1. 「何もできない相手」への具体的な配慮

まず、相手のスキルや経験に応じた指示が重要です。ベテラン社員には簡単な作業も、新人や異動したばかりの社員にとっては「ゼロからの挑戦」になることがあります。

たとえば、以下のようなケースを想像してみてください。

  • 異動で全く異なる業務を任されたとき
  • 昇進してマネージャー職を初めて経験するとき
  • 初めて部下の育成を担当することになったとき

これらの状況では、受け手は「何をどう進めれば良いか全く分からない」状態に陥りやすいです。その際、「具体性のない指示」ではますます混乱を招いてしまいます。

曖昧な指示の例:

「お皿の左右にナイフとフォークを並べてね」
→ この場合、受け手は「どこに、どんな基準で置けばいいのか?」と迷ってしまいます。

改善した指示の例:

「お皿の左右からこぶし一つ分離れた位置に、ナイフとフォークを平行に置いてね」
→ 具体的な基準を示すことで、受け手は迷うことなく動けるようになります。

指示を出す側が気をつけるべきことは、「相手がその作業に慣れているかどうか」を常に考え、指示の精度を調整することです。具体性を持った指示は、社員が安心して動ける環境を作り、結果的に「自分はできる」という自己効力感を高める要素になります。


2. 曖昧な指示が引き起こす離職リスク

曖昧な指示が続くと、部下や社員の気持ちはどうなるでしょうか?次のような心理が生まれる可能性があります。

  • 「いつも上手く動けない。自分はダメなのかもしれない」
  • 「この仕事が向いていない気がする」
  • 「もっと働きやすい職場を探そうかな」

このような気持ちが蓄積されると、やがてモチベーションが低下し、離職につながってしまいます。特に、指示を出す側のキャリアが長いほど「相手は分かっているだろう」と思い込みがちですが、そこに落とし穴があります。

上司の心の油断:

「普通に考えればわかることなのに、なんで動けないんだ?」

このような考えに陥らないよう、あえて「相手の立場に立った指示」を意識することが必要です。


3. 自主性を引き出す「選択肢のある指示」

社員がやりがいを感じる職場には、共通して「自主性を尊重する文化」があります。ただ命令されて働くのではなく、「自分で決めた」と思える場面が多いほど、社員はやる気を持ちやすくなります。

たとえば、「A案とB案のどちらで進めた方が良いか、自分で考えて選んでみて」といった形で、選択肢を与える指示を出してみてください。具体的には以下のような問いかけが有効です。

  • 「どちらの方法がより効率的だと思う?」
  • 「自分ならどうやるのがベストだと思う?」

社員に選択肢を与えることで、「自分で決めた」という感覚を持たせることができます。こうした「心理的な満足感」が、社員の職場への愛着や定着率の向上につながるのです。


4. 指示に「理由」を伝える

最後に、指示に「Reason(理由)」を持たせることの重要性についてお伝えします。人は「なぜそれをやる必要があるのか」を理解すると、目の前の作業に対する意欲が高まります。

理由を示す指示の例:

  • 「この資料を作ることで、次回の提案がより効果的になる」
  • 「このチェックリストを完成させれば、全体の進捗が可視化される」

指示を受ける側が「この仕事の意味」を理解できれば、単なる作業ではなく、自分が職場や組織に貢献しているという実感を持てるようになります。この実感が「この会社で長く働きたい」という気持ちを育むのです。


まとめ:人材が定着する指示とは?

人材が定着する職場を作るための「指示の出し方」のポイントをまとめると、以下の通りです。

  1. 具体性を持たせる: 曖昧さを排除し、誰でも動きやすい指示を出す
  2. 選択肢を与える: 自主性を引き出し、心理的な満足感を提供する
  3. 理由を示す: 作業の意義を理解させ、やりがいを感じてもらう

「働きやすい」と感じる職場は、社員にとって単なる収入源ではなく、自己成長やキャリアの土台となる「成長の場」として認識されます。適切な指示を受け、安心して仕事に取り組める環境があれば、社員はやりがいや達成感を感じ、組織への信頼や愛着が深まります。こうした信頼関係は、社員のモチベーションを高め、個々のパフォーマンスの向上を促します。その結果、職場全体が活性化し、離職率が低下します。さらに、経験を積んだ社員が長期にわたり会社に貢献することで、組織全体の成長や事業の発展に直結するのです。

社員一人ひとりが「ここでなら長く働ける」「この職場で自分は成長できる」と感じる職場づくりこそが、持続可能な企業運営の基盤となるのではないでしょうか。