ジョブ型雇用ってそもそもどんなもの?
最近よく人事関連で、「人事制度をジョブ型雇用に変えた」みたいな記事を見ますよね?
これは欧米では一般的な雇用制度です。
よく「仕事」に値段が付いている、って言いますよね。
これってどういうことでしょうか?
例えばAさんは、日本料理もフランス料理もイタリア料理も作れます。 Bさんは日本料理しか作れません。 この二人が、同じ日本料理店で日本料理を作る、という仕事をすることになりました。さて?どちらが時給は高いと思いますか? |
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いろんな料理が作れるんだから、Aさんが高い、と思いませんか?
これが日本型の給与に決め方なのです。「人」で給与が決まる、という考え方です。
でも、この日本料理店では、日本料理を作る、という同じ仕事をAさんも、Bさんもします。
フランス料理や、イタリア料理は作りません。
だから、フランス料理やイタリア料理を作れるかどうかは関係ありません。
同じ日本料理を作る「仕事」をするわけですから、給与も同じというわけです。
これが、ジョブ型雇用の給与の決め方です。
では、1年目、2年目、3年目と経験を積んでいけばより腕が上がって、スキルも高くなるので年々給与が上がっていくのでしょうか?
この年々人の能力は上がっていくから賃金も上がるというのは、日本的雇用の考え方です。
最初は皿洗いから始まって、材料を刻めるようになって、簡単な料理が作れるようになって、やがて一人前の料理人になる。
場合によっては、途中で他のお店に修行に行かされるかもしれませんね。
これは、企業が持っている人事権です。
最初はスキルもないから給与は引きですが、年々スキルが上がって、能力が上がる、だからそれに伴って給与も上がっていくという制度です。
これが、日本型雇用のメンバーシップ型です。
いろんな部署を経験したり、いろんな仕事を経験したり。このことを「無限定正社員」と言ったりします。「仕事」は決まっていないというわけです。
考えようによっては、給与を頂きながらスキルアップできるって夢のような制度ですね。
この、採用時に職務が明確に決まっていなくて、いろんな部署を経験したり、いろんな仕事を経験したりすることを「無限定正社員」といいます。
ジョブ型雇用では、この「仕事」が出来る人、料理人でいえば、皿洗いなら皿洗い、一人前の料理人なら料理人に仕事ができる人を採用します。ですから皿洗いの人どんなに熟練の皿洗いになっても給与はほぼ変わらないし、料理人のポストがあかない限り皿洗いのままです。
それが、「仕事」に値段がつくということです。ジョブ型雇用では、「仕事」が変わらない限り給与はほぼ上がりません。
(ほぼ、と言っているのは少しは上がったりするようですが、日本のような昇給はありません。)
ジョブディスクリプション(職務記述書)は細かく書かれているという勘違い?
先ほど、ジョブ型雇用には「仕事」に値段がついていると言いました。
どんな「仕事」をするのかを記載したものが「ジョブディスクリプション」です。(以降JDと記載します。)
このJDのは、とても細かく記載されていると思っている方が多いのですが、実はそうではありません。
海老原嗣生氏が書かれた「人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~」に書かれているある会社のJDです。(原文は英語です)
■職名 人事スタッフ
■上長 人事課長
■やるべき仕事
・リクルートの手伝い、関連する事務仕事も担当する
・リクルート費用の管理と、応募者の面接及び以降の進捗
・学校に定期訪問し、親しい関係を維持する
・研修プログラムを等を考え、磨き上げ、導入する
・英語インストラクターと毎週の英語レッスンの管理構成する
・人事マネージャーを人事制度と福利厚生の面で手伝う
・他の人事や一般管理の仕事も任された場合行う
・電話の応答と落とし物管理
・人事方針の下、社会保険と従業員管理を遂行する。
引用:「人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~」海老原嗣生氏著
いかがですか?案外ざっくりとしているな~って思いませんでしたか?
特に赤文字のところなどは、ふわっとしていて、具体性に欠けますよね。
でも、実際にこういう程度の記載なのです。
これだと、日本で入社した時に渡している労働条件通知書の仕事内容とあまり変わらなそうですね。
JDとはこと細かに仕事内容を書いたものではないんですね。
ある程度、仕事の割り振りは管理職によって柔軟に変更されるし、このJDでは一般的・概括的・抽象的な範囲内で書かれているのです。
欧米のジョブ型雇用と日本型メンバーシップ型雇用の大きな違い
ジョブ型雇用は、仕事に値段がついていると言いました。
その仕事を希望し、採用され、その仕事ごとに値段(給与)も決まっています。
だから、雇用した側が、勝手に明日から接客の仕事へ異動を命令したり、とかフランス料理店へ異動を命令したり、みたいなことは出来ません。
いわゆる「人事権」がありません。
一方、ジョブ型雇用においては、従業員側からすると、もっと給与を上げたい、スキルアップした仕事をしたいと思えば、企業内でそのポストがあくまで待つか、ほかの会社で探す、ということになります。
日本の人事権は強く保守されている
これが、最も大きな違いです。ジョブ型雇用を採用しているといっても、おそらくこの人事権を手放してはいないと思います。
よく「日本型ジョブ型雇用」と言われるゆえんはこういうところにあります。
例えば、就業規則にも「正当な理由がない限り、異動を拒むことは出来ない」と規定されています。
昨年、転勤拒否に関する以下のような判決がありました。
ひとり親のため育児に支障が出る転勤を拒み、それを理由懲戒解雇されたのは不当だとして、起こした訴訟の判決で、大阪地裁の裁判長は「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとはいえない」などと指摘し、転勤命令は「人事権の乱用」で無効だとする男性側の訴えを退けました。 |
本来、ジョブ型雇用は、企業に人事権はありません。
ジョブ型雇用に移行するということは、本来企業は人事権を手放すということです。
果たして、日本の企業は、人事権を手放せると思いますか?私は出来ないと思っています。
強い人事権があるからこそ、日本では解雇が難しいという現実もあるわけです。
人事権を使って自由に異動させてきたのだから、ある部署で成果を出せていたいからと言って、解雇はだめですよ、もっといろいろ異動させたり、改善の指導をしてくださいね、ってことになるわけです。
日本と欧米では仕事の年齢問題は真逆!?
日本では、年を重ねてからの転職は厳しい状況があります。
採用の要件として、年齢制限を設けている企業もあります。
例えば、キャリアアップのためとして、35歳未満の年齢制限など。
でも、ジョブ型では、企業が求めている「仕事」が出来ればいいわけですから、年齢は関係ありません。
むしろ同じ仕事を続けることで腕も上がってきます。でも、同じ仕事を続けている限り年収はたいして変わりません。
ですから、同じ年収であれば、スキルは未熟な若年者より、熟練の年長を雇用したほうが、企業にとってはコスト的にも有利です。
スキルが未熟な若年層は、企業でインターンなどをやりながらスキルを高めることになります。その為、就職が難しいと言われています。
仕事の年齢問題は、日本と欧米では真逆ですね。
補足:年齢制限は原則NG
求人・採用において年齢制限は原則NGです、ただ例外的に認められているものもあります。
例えば、よく求人で見かける「35歳未満の年齢制限」です。これは、以下の理由で認められています。
「長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合」
つまり、若年者を採用して、キャリアを形成していく、育成していくということですね。
まとめ
以上のように、日本で言われているジョブ型雇用と、欧米のジョブ型雇用との違いをご理解いただけましたでしょうか?
本当のジョブ型雇用を理解して、導入している企業や人事担当者がどれくらいいるでしょうか。
本当のジョブ型はそうじゃない!と言っても、日本独自のジョブ型雇用がおそらく浸透していくでしょう。
人事権もあって、ジョブ型のいいところと合わせた「日本型ジョブ型雇用」が増えてくるかもしれませんね。