退職時に社員が有給休暇をまとめて請求してきたら、拒否することは出来るのか?企業の対応を解説

退職時に有給休暇をまとめ申請してきたらどうする?

退職するときに、残っている年次有給休暇(これ以降有給休暇は年次有給休暇のことを指します。)を全部有給消化して退職します、って方いますよね。結構、退職するときの当たり前な感じになってきましたよね。

退職を早めに申し出てくれるといいんだけど、1ヶ月前の退職申し出で、有給休暇の残りが20日も30日もあると、もう出勤日はすべてが有給休暇消化になって、出勤する日はもうないじゃん!ってことになったりもしますよね。

こんな時でも、従業員の言う通り有給休暇は取得させないといけないの?

と相談を頂くことがあります。結論としては取得させないといけません。

そもそも有給休暇は従業員の権利です。

これまで取得できたものを取得していなかったわけですから、従業員の立場からするとそれはやっぱり使い切って退職したいと思うのも無理ありません。

就業規則に〇日前までに申し出るとなっているけど、その期日を守っていないからって拒否できる?

就業規則に、「年次有給休暇の申し出は〇日前までに申し出ること」って書いてありますね。

7日前までや、10日前、2週間前までなど企業によっていろいろですね。

この〇日前まで、というのはどんな意味で設けてあるのでしょうか?

これは、有給をとるときの仕事の割り振りとか、調整にかかる日数と解されています。

事業主側には、時季変更権というものがあります。これは、従業員が申し出た有給休暇の日を、会社が指定した日に変更できる権利です。

例えば10日前までと規定されているのに、申し出たのが3日前だったから、仕事の割り振りや調整が出来ないからって、と言って時季変更権を行使して、拒否できるか?

時季変更権は労働基準法第39条に定められています。

労働基準法第39条第5項

 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

「事業の正常な運営を妨げる場合において」のみ、変更権が認められています。

事業の正常な運営を妨げなければ、本人が希望した日に与えなければならないということになります。

では、そんなまとめて取られたら、引継ぎもまともにできなくて困るじゃないか!

って雇用している側からしたら思いますよね。

でも、日本においてはこの退職することの自由は強力に保障されていいます。

退職間際の引継ぎがきちんとされない、ということをもって、時季変更権の行使は正当な理由にはならない、と解釈されているのが一般的のようです。

退職を決めた人に、ちゃんと引継ぎをして退職して、みたいな真っ当なことを言っても、会社のことなんてもう知らないよ、みたいな気持ちになっています。もっともなことを言っても通じないでしょう。

中には、これまでの勤務させてもらったことに感謝して、立つ鳥跡を濁さず、といった殊勝な人もいるかもしれません。

でも、そんな殊勝な人は退職間際に大量の有給休暇を申請してこないのではと思います。

だから、ここで揉めて、何か他のことまで持ち出して労使トラブルになると、さらに企業にとっては損失につながることもあるので、希望通りに気持ちよく退職してもらったほうが得策ではないでしょうか?

有給休暇の買取りはできる?

有給休暇の買取りは本来できません。以下のような通達が出ています。

(基収4718号)
 年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である。

しかし、特別に許されるケースがあります。

それは、退職時です。

例えば、今回の事例のように、1ヶ月前に退職を申し出て引継ぎなどで残り全部を有給消化になってしまうと、引継ぎがきちんとできないから、すべてを消化することが難しくなったりします。

そんな時は、その消化しきれなかった分を買い取ってあげることはできます。

有給消化と言っても、その間は会社に席があります。

引継ぎをする分、有給消化のために退職日を延ばせば、社会保険料も双方にかかってきます。

引継ぎが終わったところで、有給休暇を買い取って、従業員が希望する日に退職となれば、会社側にとっても社会保険料等の負担が少なくて済みます。

ちなみに、従業員側から買い取って欲しい、と言われたときには基本的に拒否することは出来ません。

この買い取りについては、従業員とよく話し合ってお互いに同意しておくことが必要です。

従業員にとっては、有給休暇中の在籍中に転職活動したい、みたいに考えている人もいます。

一方的に買い取りにするようなことを避けたほうがいいでしょう。

※注意!※この、有給休暇の買い取りは、あくまで退職時のことです。

在職中に、例えば5日取得義務の5日が取得できなかったから、その分を買い取って取得したようにする、といったことは違法ですので、やってはいけません。

計画的に年休を取得できる仕組みを作ろう

ここまで、退職時にまとめて年次有給休暇を申請されたときの対応について解説をしました。

ちょっと考えてみて下さい。

そもそも、毎年ちゃんと年次有給休暇が取得されていれば、発生しない問題です。

そうはいっても、人手不足だから、そんなに従業員全員に有給を取られたらたまったもんじゃない、仕事回んないよ!っていう経営者の方の声が聞こえてきそうです。

ですが、「労働時間や労働環境」の不満は退職理由の上位にあります。

有給休暇が取得できなくて、退職に繋がれば、採用コストはかかるし、人も定着しません。

それより、毎年有給休暇を消化できる企業のほうが、従業員も喜んで働いてくれて、評判も良くなるのではないでしょうか。

これから、人口減少により、採用はますます厳しくなります。

仕事を探している人から選ばれる企業になるためにも、これまで有給休暇が取得出来ていない、企業はぜひ有給休暇が取得できる環境作りを目指してみませんか?