「静かな退職」は“やる気のなさ”?社員の“やる気の線引き”から見える職場の課題と可能性

はじめに:辞めてないのに“やる気が見えない”

「最近、なんとなく受け身な社員が増えてきた」
「指示されたことはやるけど、それ以上はしない」
もし、そう感じる場面が増えてきたとしたら、それは“静かな退職(quiet quitting)”のサインかもしれません。

この言葉はもともと2022年にアメリカのキャリアコーチが提唱したことをきっかけに、SNSを通じて注目され、近年では日本でも企業・個人問わず広がりを見せています。では、“静かな退職”とは何なのでしょうか?

「静かな退職」とは?

静かな退職とは、仕事を辞めるわけではないけれど、必要最低限の業務だけをこなし、それ以上のこと(残業・自己研鑽・積極的な提案など)を行わない働き方のことを指します。
一見ネガティブに見えるこの動き、実は単なる「やる気の低下」だけでは説明できません。

たとえば、こんな行動が見られます:

  • 指示された仕事はこなすが、自主的な提案や改善の働きかけはしない

  • 勤務時間ぴったりに出退勤し、残業は一切行わない

  • 会議や雑談での発言が減り、業務以外のコミュニケーションが希薄になる

  • 評価や昇進に対して関心が薄れ、「現状維持」で十分という姿勢をとる

  • 社内イベントや研修などに参加しない(あるいは最低限のみ)

これらはいずれも、「業務の放棄」ではなく、“自分の仕事の範囲を明確に線引きする”姿勢の表れとも言えます。

データで見る“静かな退職”の実態

株式会社マイナビが実施した調査(※)によると、
正社員の44.5%が「静かな退職をしている」と回答しています。
特に20代では46.7%と高く、若年層を中心にこの傾向が強まっていることが分かります。

一方で、企業側(採用担当者)の約4割が「静かな退職」に一定の理解・肯定を示しているという興味深い結果も出ています。

※出典:「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」マイナビキャリアリサーチLab 2025年4月22日公開

なぜ“静かな退職”が起きるのか?

  • 成果主義・期待へのプレッシャーに疲弊した

  • 自発的に動いても評価されず、報われない経験がある

  • ワークライフバランスを優先したいという価値観の変化

  • キャリアの将来像が描けない

こうした背景から、「やるべきことはやるが、それ以上のことはしない」という線引きが生まれています。

企業にとっての“リスク”と“チャンス”

リスク

  • エンゲージメントの低下が組織全体の士気に波及

  • 静かに退職された結果、優秀な人材が去る前兆を見逃す可能性

チャンス

一方で、“静かな退職”は組織にとっての警鐘ともいえます。
「社員が声を上げず、心が離れている」状態を可視化し、
本当の課題――例えば「評価の不透明さ」や「上司とのコミュニケーション不足」を見直す機会にもなり得ます。

対応のポイント

  1. “怠けている”と決めつけない
    社員のやる気が見えないからといって、すぐに「やる気がない」「怠けている」と判断するのは危険です。まずは、今の働き方に至った背景や 声に耳を傾ける姿勢を大切にしましょう。

  2. 役割や期待のすり合わせ
    「何を期待しているか」「どこまで任せるのか」が不明確なままだと、社員は必要以上にリスクを取らなくなります。定期的な対話を通じて、業務範囲や期待値を擦り合わせることが信頼関係づくりにつながります。

  3. 働きがいの再設計
    やりがいや達成感を感じられるかどうかは、意欲に直結します。評価制度や目標設定の見直しを含め、社員が「なぜこの仕事をするのか」に納得できる仕組みづくりが求められます。

  4. マネジメント層の育成
    社員だけでなく、管理職も“板挟み”で疲弊していることがあります。傾聴・共感力をベースとしたマネジメント研修や、上司同士で支え合える環境づくりも検討するとよいでしょう。

一人ひとりの声を丁寧に受け止め、働きがいの再設計やマネジメントの見直しを行うことは、“静かな退職”を防ぐだけでなく、これからの人材戦略を見直す大きなヒントにもなります。

次に、「静かな退職」という現象を、単なるリスクではなく、組織づくりのきっかけと捉える視点について考えてみましょう。

「静かな退職」から見る、多様な人材を活かす戦略的視点

“静かな退職”は、社員からの「働き方の線引き」であると同時に、企業にとっては「配置や役割が合っていない」「成長の機会が見いだせていない」といった“人材の活かし方”の課題を浮き彫りにするヒントでもあります。

 視点①:適材適所の見直し

やる気が見えない=能力がない ではありません。
もし「その社員が別のチームや役割で力を発揮できるとしたら?」
静かな退職の兆候は、「本人に合っていないポジションの可能性」を探るきっかけにもなります。

視点②:人材の多様性と選択肢

「全員がエース」ではなく、「静かに力を発揮する職人タイプ」も組織に欠かせない存在です。
今後は「バリバリ活躍する人材」と「安定的に業務を支える人材」をどう活かし合うかが、持続可能な組織運営の鍵になります。

視点③:キャリアの再設計

最近おとなしくなった社員は、キャリアに迷っているのかもしれません。
キャリア面談や役割のすり合わせを通じて「これから」を一緒に考えることで、再び意欲を取り戻すきっかけにもなります。

おわりに

“静かな退職”は、単なるやる気の低下ではなく、「これ以上は無理です」「納得して働けていません」という、社員からの静かなサインでもあります。

企業として見過ごすのではなく、その背景を捉え、向き合うことで、働きやすく、働きがいのある職場への第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

 

職場の“静かな課題”を見つける組織診断やマネジメント支援のご相談はこちら