やりたいことがない若手社員への向き合い方─人材育成はWILLから始めない

はじめに:WILLを問う前に、育成の順番を見直してみませんか?

「あなたは何がやりたいの?」
「どんなキャリアを目指しているの?」

社員にそう尋ねても、うまく答えられない――そんな場面に、心当たりはありませんか?
とくに若手社員や中途入社して間もない社員に対して、最初から明確な目標や強いWILLを期待していませんか?

「やりたいことがない=やる気がない」と受け取ってしまうと、指導の方向を誤ることがあります。でも実際には、「まだわからない」「まずはやってみないと」という状態こそ、育成のスタート地点なのです。

人は、やってみて、できるようになって、初めて「これが意外と好きかもしれない」と思えることがあります。
MUST(やるべきこと)から始まり、CAN(できること)が増え、その延長線上にWILL(やりたいこと)が芽生える――そんな成長の流れを、見直してみませんか?

本記事では、人材育成における「MUST→CAN→WILL」の順番に注目し、社員の動機付けに悩む経営者や人事担当者に向けたヒントをお届けします

1. 「WILLがなければ始まらない」は本当か?

キャリア教育や自己啓発の世界では、「WILL(やりたいこと)」を出発点にしようという考え方が主流です。

もちろん、自らの意志に従って行動することは理想的です。
しかし現実の職場では、入社時点で明確な目標を持っている人は少数派。むしろ「今は何が向いているかわからない」「言われたことをやるだけで精一杯」という人がほとんどです。

その状態の社員に、繰り返しWILLを問うのは、かえって負担になることもあります。
「やりたいことがない自分はダメなのか」と自己肯定感を下げてしまうことも。

だからこそ、育成のスタートは「WILL探し」ではなく、「行動の積み重ね」に目を向けてみてはいかがでしょうか。

2. MUSTから始める、社員の自然な成長ステップ

2-1. MUST:まずは「やるべきこと」に取り組む

新入社員や異動直後の社員にとって、与えられた業務=MUSTからスタートするのはごく自然な流れです。

たとえ興味がなかったとしても、「まずやってみる」ことで、仕事への理解やスキルが身についていきます。
ここでは、仕事に慣れる・リズムをつかむ・ミスを減らすなど、地味だけれど重要な土台が築かれていきます。

ポイントは、MUSTを「押しつけ」ではなく「学びの入口」として捉えさせること。
「なぜこの業務が必要なのか」「どんな力が身につくのか」を伝えることが大切です。

2-2. CAN:経験の中で「できる」が増えていく

MUSTに取り組む中で、小さな「できた!」が積み重なると、社員の中にCAN(できること)が増えていきます。

・お客様との会話がうまくできた
・先輩から「ありがとう」と言われた
・作業効率が上がって残業が減った

こうした経験は、「やればできる」という感覚を生み、自信へとつながります。

CANの拡大は、次のステップ=WILLへの橋渡しとなります。

2-3. WILL:やりたい気持ちは後から育つ

CANが増えてくると、「自分はこれが得意かもしれない」「もっとやってみたい」というWILLが芽生えるようになります。

この時期に、経営者や上司がその声を拾い上げ、少しずつ「任せてみる」ことが大切です。
WILLの芽を育てるのは、「本人の気づき」と「受け止める環境」の両方があってこそです。

3. 行動が育てる、動機づけのメカニズム

行動→結果→実感→やる気――この流れが自然な人間の心理の流れです。
やる気があるから行動するのではなく、行動したからやる気が出てくるのです。

だからこそ、まずは動ける環境づくりが重要です。
心理的安全性、OJTの充実、こまめな声かけなど、「とにかく行動してみよう」と思える雰囲気を職場全体で育てていくことが鍵になります。

4. 経営者・人事ができる具体的な支援策

4-1. MUSTの意味づけをしっかり伝える

業務の意義や全体とのつながりを伝えることで、「やらされ感」から「納得感」へ変えていくことができます。

4-2. 小さな成功体験を意識して設計する

フィードバックやOJT、1on1での声かけを通じて「できた」を言語化し、本人に実感させる場を作りましょう。

4-3. WILLが見えた瞬間を見逃さない

「これ、やってみたいです」といった声を歓迎し、小さな裁量を与える。
その体験が、次の挑戦につながる“やる気の連鎖”になります。

5. まとめ:意欲は“問いかける”より“引き出す”もの

社員のやる気を引き出すには、まずは行動を促すことから。
明確なWILLを求めるのではなく、MUST→CAN→WILLの順番で「行動→成長→意欲」を後押ししていくことが、人材育成の現実的なアプローチです。

「最近の若手はやる気がない」と感じたときこそ、問いかけ方や育成ステップを見直すチャンス。“WILLが見えない社員”へのアプローチも、仕組み次第で大きく変わります。行動が人を育て、行動の中で人は変わります。まずは、小さな「やってみよう」から始めてみませんか?

 

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