人事労務関連の法改正は例年多く行われていて、毎年対応していくのが大変ですよね。
2022年に人事労務に関して法改正される重要な3つについて解説します。
「知らなかった!」済まないので、改正内容をしっかりと理解しておきましょう。
その1 改正育児介護休業法
育児介護休業法は、今年大きな改正があり、4月と10月の2回に分けて施行されます。
では、まず4月施行の改正内容についてみていきましょう。
4月施行の改正内容
1 雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
● 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
育児休業と産後パパ育休の申し出がしやすくなるように環境の整備が必要です。
以下の中から少なくとも一つは実施しなければなりません。もちろん複数実施しても構いません。厚生労働省は複数の実施が望ましいとしています。
① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施 ② 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置) ③ 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供 ④ 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知 |
<ポイント>
①「研修」は、全労働者を対象とすることが望ましいですが、少なくとも管理職については、研修を受けたことがある状態にすることが必要になっています。
②相談体制の整備は、相談窓口を形式的に設けるのでは無く、実質的な対応が出来る体制が必要です。
③「自社の育休取得の事例提供」は、自社の育児休業の取得事例を収集し、事例が記載された文書を配布したり、イントラネットに掲載したり、従業員が閲覧できるようにしましょう。
④ 「制度と育休取得促進に関する方針の周知」は、事業主の方針を記載したものを、事業所内に掲示したり、イントラネットへ掲示することが必要です。
● 妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
従業員本人や従業員の配偶者の妊娠や出産の申し出をしたら、育児休業制度等に関する事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。
これは、育児休業の申し出が円滑に行われることを目的としていますので、取得を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。(当たり前と言えば当たり前です。目的をちゃんと把握しておきましょう。)
<周知事項> ① 育児休業・産後パパ育休に関する制度 ② 育児休業・産後パパ育休の申し出先 ③ 育児休業給付に関すること ④ 労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い |
<個別周知・意向確認の方法> ①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか |
<ポイント>
・面談は、オンライン面談でもOKです。
・③FAX、④電子メール等は従業員が希望した場合のみとなっています。
では、申出があったらいつころまでに個別周知や意思確認を行えばいいのでしょうか?
厚生労働省の資料には以下のように記載されています。
労働者が希望の日から円滑に育児休業を取得することができるように配慮し、適切な時期に実施することが必要です。具体的には、
・ 妊娠・出産の申出が出産予定日の1か月半以上前に行われた場合:出産予定日の1か月前までに、
・ それ以降に申出があった場合でも、出産予定日の1か月前までに申出が行われた場合:2週間以内、出産予定日の1か月前から2週間前の間に申出が行われた場合:1週間以内など、できる限り早い時期に措置を行うことが必要であり、
・ 出産予定日の2週間前以降に申出があった場合や、子の出生後に申出があった場合は、できる限り速やかに措置を行うことが必要。引用:厚生労働省 (事業主向け)説明資料「育児・介護休業法の改正について~男性育児休業取得促進等~」の資料より
個別周知や意思確認は適切な時期に行うようにしましょう。
厚生労働省では、雇用環境整備、個別周知・意向確認に活用できる素材をホームページにて公開しています。会社に合わせてカスタマイズできるようになっていますので、上手く活用しましょう。(以下をクリックするとサイトに移動します。)
●社内研修用資料、動画 ☚クリック
●個別周知・意向確認、事例紹介、制度・方針周知ポスター例 ☚クリック
※環境整備、個別の周知・意向確認ともに産後パパ育休に関しては、10月1日からの対象となります。
2 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
有期契約の従業員については、これまで以下の要件がありました。
(1) 引き続き雇用された期間が1年以上
(2) 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない
この中の「(1) 引き続き雇用された期間が1年以上」が削除されました。
ですが、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は労使協定の締結で除外可能です。
また、就業規則の改正も必要です。忘れずに改正しましょう。
10月施行の改正内容
3 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設 10月1日~
今回の改正の目玉でもあります産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されます。
これは、男性の育児休業を促進するもので、子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 です。
4 育児休業の分割取得 10月1日~
育児休業は、これまで原則分割しての取得は出来ませんでしたが、2回まで分割して取得できるようになります。
<ポイント>
産後パパ育休については、労使協定をあらかじめ締結している場合には休業中の就業も認められます。
また、休業の申し出は原則2週間前までとなっていますが、労使協定により1か月前までに申し出ること、とすることが出来ます。但し!それには法を上回る環境整備が必要になります。例えば、育児休業取得に関する数値目標の設定が必要になります。
この「産後パパ育休」「育児休業の分割取得」についても就業規則の改正が必要です。
その2 パワーハラスメント防止対策 4月1日~
パワーハラスメント防止対策は、これまで中小企業については努力義務となっていましたが、今年の4月1日~義務化になります。
では、具体的にどんなことが義務化されるのでしょうか?
これまで
●セクシャルハラスメントについての防止対策
●妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについての防止対策
についてはすでに義務化されていました。
これに、パワーハラスメントが加わったというわけです。
では、会社としてはどんなことが義務化されるのでしょうか。
- 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき措置
以上の4つです。
では、一つずつ具体的にみてみましょう。
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
①職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
<具体的な取り組み>
パワーハラスメントをはじめハラスメントは一切許しません、といった事業主の方針を、就業規則や文書で周知します。
方針を記載したパンフレットの配布や、研修の実施などが必要になります。
②行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
ハラスメントに該当する行為を行ったら、具体的にどんな対処がなされるのが、例えば懲戒解雇になる場合などのルールを明確にして、それを社内できちんと周知することで認識してもらい、ハラスメントの無い職場作りを目的にしています。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
相談があった場合の対応をするための相談窓口を設置します。
これは、形式的なものでは認められず、実際に対応が可能な窓口を設置することが必要です。
ですから、相談しやすい環境続くり、例えば電話だけでなくメールなどでも受け付ける方法や、実際に相談があった場合どうのような対応をするのかといった、整備が必要になります。
また、内部相談窓口の設置だと、相談しづらい場合も考えられますので、外部相談窓口の設置もいいでしょう。
④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
実際に相談窓口の担当者に対し、相談時の話しの聞き方や、相談を受けた後の対応方法などマニュアルを作成してマニュアルに基づいて対応が出来るように整備する必要があります。
また、相談窓口担当者が誤った対応をすることで、余計にこじれたりしないよう、研修の実施も必要になりますね。
職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。
例えば、窓口担当者や人事部門のなどから相談者、行為者の双方から事実関係を確認したり、双方の主張に不一致がある場合は第三者から事実関係を聴取するなどの対応を行う必要があります。
⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に⾏うことが必要です。
例えば、被害者と⾏為者を引き離すための配置転換や、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置も必要になります。
⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
例えば、よくあるのがハラスメントの事実が確認されても、問題を軽く考えたり、あるいは話が広がるのを避けるため内密に処理しようとしたりするとかえって、こじれたりますので、適切な処理を行うことが大切です。
事業主が真摯に取り組むこと、⾏為者への制裁は、公正なルールに基づいて⾏うことも重要ですね。
⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
ハラスメントが起こった場合、又はハラスメントの事実が確認できなかったような場合でも、再発防止に向けて、従業員に対して職場におけるハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施などが必要です。
併せて講ずべき措置
⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
ハラスメントって、パライバシーにかかわるところがとても大きいですよね。
ですから、相談者や行為者のプライバシーはきちんと保護されなければなりません。
ですから、相談窓口の担当者はマニュアルに基づいて適切に対応することはもちろんのこと、担当者への研修の実施が必要です。
また、プライバシーの保護を適切に行っていることを従業員にも社内報であったり、ホームページ等で周知したり、資料を配布するなどして、安心して相談できる体制の整備が必要です。
⑩ 相談、協⼒等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定めと周知・啓発
相談したことや、事実関係の確認に協力したことで、不利益な取り扱いはされないことを周知、啓発します。
相談窓口設置の周知等の際に、こういった周知も併せて行うと効果的と思います。
パワーハラスメントに限らず、ハラスメントのない職場作りを行うことで、自己理解と他者理解を深め、職場でのコミュニケーションをの質を高め、働きやすい職場作りに繋がります。
その3 健康保険の傷病手当金の支給期間の通算化
令和4年1月1日から、
同一の病気やケガによる傷病手当金の支給期間が、支給開始日から「通算して1年6か月」になります。
これまでは、支給開始日から起算して1年6か月経過後は不支給となりました。
ですから、途中で傷病等が回復して、受給されていない期間があれば、トータルでは1年6ヶ月の受給は出来なかったわけです。
それが、今回の改正で、支給開始から1年6ヶ月を超えても、1年6ヶ月に達するまでは、傷病手当金が支給されます。
長期療養が必要な場合には、ありがたい改正ですね。
まとめ
人事労務に関する法改正はここ数年毎年行われています。
義務化されたから、という義務感でやるのではなく、法改正の目的をよく理解した上で、そこで働く従業員一人一人がいきいきと働く職場作りとして、ぜひ経営者または経営幹部が積極的に取り組んで頂きたいと思っています。