給与計算の基礎をわかりやすく解説します。
本日のテーマは「社会保険料編」です。
社会保険料はどうやって計算する?
今回は、中小企業が多く加入している「協会けんぽ」の場合を解説します。
社会保険料を計算するときには「標準報酬月額」をもとに計算します。
「標準報酬月額」とは、
会社に勤める人が会社から支給される基本給のほか、役付手当、通勤手当、残業手当などの各種手当を加えた1ケ月の総支給額(臨時に支払われるものや3カ月を超える期間ごとに受ける賞与等を除いたもの)を「報酬月額」といいます。
報酬月額を保険料額表の1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分け、その等級に該当する金額のことを「標準報酬月額」といいます。
とあります。
保険料額表は、以下よりご確認下さい。(都道府県ごとにあります。)
つまり、こういうことです。
- 基本給:200,000円
- 役職手当:50,000円
- 通勤手当:4,200円
- 合計:254,200円 ←これが報酬月額
この254,200円を先ほどの保険料額表に当てはめると
⇒「260,000円」の等級に該当します。
これを、「標準報酬月額」って言います。
この260,000円に保険料率をかけて保険料を計算します。
※注意:健康保険の保険料率は都道府県毎に異なります。
ここでよくある間違いは、
給与の総支給額(今回の例であれば254,200円)に保険料をかけて、保険料の計算がされています。
ポイント!
社会保険料は、総支給額ではなく、標準報酬月額で計算しよう!
では、昇給したり、降給したら、保険料はどのように計算するのでしょうか?
給与が変動したらどう計算するの?
給与の締め日:月末
給与の支給日:翌月20日
の場合を例に解説します。
保険料が変わらないパターン①
12月の給与(支給日:1月20日)
- 基本給:210,000円
- 役職手当:50,000円
- 通勤手当:4,200円
- 合計 264,200円
1月から昇給(支給日:2月20日)
- 基本給:220,000円
- 役職手当:60,000円
- 通勤手当:4,200円
- 合計 284,200円
この場合のよくあるミスは、こんな感じです。
284,200円を先ほどの保険料額表に当てはめると、
標準報酬月額は⇒280,000円になります。
2月20日支払の給与計算から、この280,000円で保険料を計算。
これは、間違いです!
給与が上がってもすぐに保険料は変わりません。
これは、給与が下がった時も同じです。
では、いつから上がるの?と思いますよね。
結論からいうと、この場合は保険料の変更はありません。うん?なぜ??
昇給や降給のした場合の保険料の取り扱いについては、日本年金機構のホームページに、このように書かれています。
(3)随時改定
昇給や降給により、支払われる報酬月額が大幅に変動した場合に、事業主からの届出に基づいて標準報酬月額を改定します。
これを随時改定といい、その年の8月まで使用します。ただし、その年の7月以降に改定された場合は、翌年の8月まで使用します。
随時改定は、固定的賃金(残業代などの非固定的賃金ではありません。)に変動があり、継続した3か月間に支払われた報酬総額を3(か月)で除した額の標準報酬月額を従前と比べてみて、2等級以上の差が生じたときに改定します。これは定時決定まで標準報酬月額を決め直さないと、実態と大きくかけ離れることになるために設けられているものです。
随時改定とは、わかりやすく言うと、お給料が大幅に変わった場合イレギュラーで保険料を変更することです。(「定時改定」については、後ほど解説します。)
つまり、今回は260,000円から280,000円へのアップは、1等級アップになります。
2等級以上のアップではないので、随時改定には当たらず、保険料の計算に変更はありません。
保険料が変わらないパターン②
では、こんな場合はどうでしょう。
基本給、役職手当、通勤手当の変更は無くて、たまたま急に忙しくなって、1月~3月の残業代が高くなりました。
- 1月20日支払:264,200円 + 残業代28,000円
- 2月20日支払:264,200円 + 残業代33,000円
- 3月20日支払:264,200円 + 残業代26,000円
3ヶ月を平均したら、293,200円になりました。(よほど忙しかったんですね、、、)
この場合、標準報酬月額は300,000円ですから、2等級上がりました。
この場合、保険料は変更しますか?
変更しません。なぜ?
さきほど「固定的賃金(残業代などの非固定的賃金ではありません。)に変動があり、」とありましたね。
残業代は、この「非固定的賃金」に該当するので、保険料変更の対象にはなりません。
ポイント!
基本給、役職手当、通勤手当といった固定的賃金がわからず、残業代(非固定的賃金)が増えて、標準報酬月額が2等級以上に上がっても、保険料は変わらない!
(だんだんややこしくなってきましたね。)
では、保険料が変更になるパターンを見てみましょう。
保険料が変わるパターン
12月の給与(支給日:1月20日)
- 基本給:200,000円
- 役職手当:50,000円
- 通勤手当:4,200円
- 合計 254,200円
1月から昇給(支給日:2月20日)
- 基本給:240,000円
- 役職手当:60,000円
- 通勤手当:4,200円
- 合計 304,200円
この場合の標準報酬月額は・・・わかりますか?
そうです。「300,000円」です。
そうすると、260,000円から300,000円と2等級アップしています。
だから保険料は2月支給分から変えて計算っと…。
ちょっと待った!(えっ?また??)
これでも、まだ2月20日に支給する給与計算では、保険料は変わりません。
「継続した3か月間に支払われた報酬総額を3(か月)で除した額の標準報酬月額を従前と比べてみて」とあります。
だから、保険料が変わるのはまだ先です。
では、もし、ここで残業代があった場合は・・・
- 2月20日支払では、304,200円 + 残業代18,000円
- 3月20日支払では、304,200円 + 残業代14,600円
- 4月20日支払では、304,200円 + 残業代19,000円
この場合は、3ヶ月の平均は321,400円になり、標準報酬月額「320,000円」となります。
(あれ?さっき標準報酬月額は「300,000円」だったような?)
そうなんです!つまり、3ヶ月の給料に残業代があったら残業代も含めて、3ヶ月平均がいくらになるかを計算します。
だから、残業代があると等級がさらに上がったりしますね。
つまり、2月20日支払い、3月20日支払、4月20日支払を合計して、実際に、いくらの標準報酬月額になって、何等級以上変動があるかを確認します。
この場合は、2等級以上に上がっているので保険料変更の対象になります。
そして、標準報酬月額は「320,000円」になります。
これが、いつからになるかというと…
5月分の給与から新しい標準報酬月額が適用されて、
6月20日支給の給与から標準報酬月額「320,000円」で社会保険料は計算することになります。
↑これ、とっても大事だから覚えておいてくださいね!
あと、この時大切なことがあります。給与計算で保険料を変更するだけではNGです。
「健康保険 厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」の手続きが必要です。
手続きの方法はこちらを参照して下さい。
該当したら忘れずに、速やかに手続きを行いましょう。
※注意:ただし、連続3ヶ月の基礎日数1ヶ月でも17日未満があれば、他の要件に該当していてもこの届出は行いません。したがって保険料の変更に該当しません。
算定基礎届って聞いたことあるけど何?
では、先ほど残業代だけ上がっても、保険料は変わりませんよ、と言いました。
では、ずっと上がらないの?ってちょっと疑問に思いませんか?(ちょっとラッキーとか思ったりしていませんか?)
なので、年に1回見直しがあります。ここで出てきました!
それが、先ほど言った「定時改定」です。
毎年1回、7月10日までに行います。
手続きの名前は、「算定基礎届」といいます。
毎年、7月10日までに届出が必要です。
(2)定時決定
その後は、毎年1回、7月1日になる前の3か月(4月、5月、6月)に支払った報酬月額が事業主から提出され、このときに、その報酬総額をその期間の月数で除して得た額で標準報酬月額を決め直します。
これを定時決定といい、その年の9月から翌年の8月まで使用します。
定時決定は、3か月(4月、5月、6月)に支払われる報酬月額のうち、支払いの基礎となる日数が17日以上あるもので算定します。
例えば、4月と6月は30日分の報酬が支払われたが、5月は休職したため16日分しか支払われなかった場合には、4月と6月の報酬総額を2(か月)で除した額をもとに標準報酬月額を決定することになります。
社会保険に加入している企業には6月頃、日本年金機構から「算定基礎届」に関する封筒が届きます。
その時は、書き方の説明書に沿って届出を行いましょう。
まとめ
社会保険料の計算については、ご理解いただけましたか?
保険料の変更に関するところは、少々複雑ですね。
今日例に挙げたのは、一例です。もっといろんなパターンがあります。
時給制の場合とか。固定的な賃金で、上がった手当てもあれば、下がった手当てもあったり。
ますます、何が何だか分からなくなりますね。
社会保険料の計算を間違うと、後で差額を還付したり、または、不足分を徴収することになります。
社員にとって不足分を後で支払うとなると、大きな負担になります。
また、会社への不信感につながる場合があります。
そうすると、場合によっては退職へのきっかけにもなり得ます。
給与計算は、とても大事な業務です。
どうしたらいいか迷ったときは、お近くの年金事務所、または顧問社会保険労務士にご相談されて下さいね。
迷いながらやると危険ですよ!