「自分で考えて動いてほしい」と言われて、自分で判断し動いたら、「勝手に動くな」と叱られる。
「何でも相談して」と言われて相談したら、「それくらい自分で考えて」と突き放される。
職場でこんなやりとりに心当たりはありませんか?
それは、“ダブルバインド(Double Bind)”という心理的なコミュニケーションのズレが原因かもしれません。
今回は、職場でありがちなダブルバインドの例と、その防ぎ方について解説します。
ダブルバインドとは?
ダブルバインド(Double Bind)とは、相手に対して矛盾した2つのメッセージが同時に伝えられる状況を指す、心理学の用語です。
アメリカの精神科医グレゴリー・ベイトソンが提唱した概念で、日本語では「二重拘束」と訳されます。
たとえば、
- 「挑戦していい」と言いながら、失敗すると強く叱る
- 「自由に判断していい」と言いながら、報告がないと怒る
このように、表面的なメッセージと裏にある評価や態度が矛盾していると、
受け手は「どうすればいいか分からない」状態に陥り、強いストレスや混乱を感じるようになります。
そしてこの状態が続くと、やがて行動自体を起こさなくなったり、指示待ち姿勢になったりと、
組織の中での活力や信頼が失われていくのです。
職場で起きがちなダブルバインドの例
ダブルバインドは、パワハラのような極端なケースではなく、
日常の会話や上司の何気ない言葉の中で、無意識に起こってしまうのが特徴です。
1.「主体的に動いて」なのに…
上司:「もっと自分で考えて動いてくれ」
社員:自分の判断で行動
上司:「なんで勝手にやったんだ?まず相談してよ」
→ 主体的に動けば「勝手に動くな」と言われ、
相談すれば「もっと自分で考えて」と言われる…。
結果、社員は「どう動いても怒られる」と感じてしまいます。
2.「失敗してもいい」なのに…
上司:「失敗してもいいから、どんどん挑戦して」
社員:提案・行動してみる
上司:「なんでそんなリスクを取ったの?」
→ 言葉では“挑戦OK”と言っていても、
実際には「失敗=マイナス評価」になっていると、
社員はチャレンジを避けるようになります。
3.「何でも相談して」なのに…
上司:「何かあったらいつでも相談して」
社員:声をかける
上司:「それくらい自分で考えて。こっちは忙しいんだよ」
→ 表面的には相談を歓迎していても、
実際には“相談しづらい雰囲気”があると、
社員は相談するタイミングを失い、自己判断をためらうようになります。
ダブルバインドが生む職場のリスク
こうした矛盾したコミュニケーションが続くと、社員には以下のような影響が現れます。
- 行動に自信が持てなくなり、萎縮する
- 上司の顔色ばかり見るようになる
- 表面的には従っていても、内心では不信感を抱く
- 本音を話さなくなる
つまり、信頼関係の崩れや組織の活力低下につながっていくのです。
ダブルバインドを防ぐために、上司や会社ができること
ダブルバインドを完全に無くすことは難しくても、
「無意識に起こしていないか?」と気づくだけで、職場の空気は変わり始めます。
1.指示と評価の軸をそろえる
「挑戦を評価する」と伝えたなら、
失敗に対しても「やってみたこと」を評価する姿勢を示しましょう。
2.伝えたいことはセットで伝える
たとえば「自分で考えて動いて」と言うなら、
「迷ったときは相談してもいいよ」と補足すると、判断の目安が明確になります。
3.定期的に「伝わり方」を確認する
1on1や日常の会話の中で、
「さっきの伝え方、どう受け取った?」と聞いてみましょう。
「伝える」だけでなく、「伝わっているかどうか」を確認する姿勢が、
相互理解を育て、信頼を深める第一歩になります。
まとめ:伝えたつもりが、迷わせていないか?
ダブルバインドは、決して“悪意のある指導”のことではありません。
「ちゃんと伝えたつもり」が、実は部下を迷わせていた──
そんな気づきから、職場のコミュニケーションは変わっていきます。
大事なのは、「伝え方」ではなく、「伝わり方」。
社員が安心して行動できる職場づくりは、そこから始まります。